【自己破産の処理事例1|同時廃止の場合】

同時廃止の場合

自己破産を法律家にお願いしたら、実際はどんな感じで進むのか?

 

弁護士が書いた本(※)に良い事例が載っていたので、要約を紹介します。

 

会話のやり取りや書式の見本まで載っている良書です。

 

詳細が知りたい人はぜひ入手してみてください。

 

※「事例に学ぶ債務整理入門」 民事法研究会 刊

 

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この事例のポイント

この例は同時廃止、つまり換金できる財産がないので、破産を宣告すると同時に終了するケースです。

 

自己破産の9割を占めるので、多くの多重債務者にとって一番参考になると思います。

 

また、債務を免除するのは破産手続きではなく、その後の免責許可です。

 

必ず許可が得らえるよう、弁護士が手を尽くしていく様には感銘を受けざるを得ません。

 

また、免責許可に先立つ免責審尋(裁判官の面談)は依頼者にとってとても心配なものですが、その様子がリアルにわかるのも興味深いです。

 

依頼者の概況

依頼者Xは40歳のシングルマザー。

 

2年前から利用を始めたショッピング・キャッシングの債務が膨れ上がり、総額250万円に。

 

返済に窮して都内の法律事務所を訪れた。

 

初回相談〜受任

対応した甲弁護士は入所半年の新米弁護士で、この時初めて単独で応対した。

 

家計状況の把握

甲弁護士はまず依頼者Xの家計状況を聞き取りで把握した。

 

収入 15万円(パート収入14万円+児童手当1万円)
支出 13万円(家賃6万円+食費2万円+水道光熱費1万円+電話代1万円+子供の幼稚園費用3万円)

 

債務総額250万円に対して、返済原資は1〜2万円程度とわかった。

 

親族等の援助もないので、この段階で任意整理はほぼ無理とわかった。

 

破産手続きの説明

自己破産を視野に入れて進める必要があるため、甲弁護士はその説明を始めた。

 

するとXは、ブラックリストに載る、戸籍や住民票に載るのでは?怖い人が家に来るのでは?選挙権もなくなるのでは?と不安がった。

 

破産についてこの種の俗信を信じている人はとても多い。

 

甲弁護士は冷静に誤解を解いた。

 

まず、このままだと滞納が始まるので、どのみちブラックリストは避けられない。

 

でも、それはお金が借りられなくなるだけだ。

 

戸籍や選挙権の話はデマだし、近所の人に知られる可能性もほとんどない、と。

 

次に一定以上の財産がある場合は、それを換金して債権者に分ける手続きがあることを説明した。

 

財産がない場合は、破産申し立てと同時に破産手続きが終わる「同時廃止」になる。

 

Xは「自分は財産などないから同時廃止で済むようにお願いしたい」と言った。

 

その上で「先生から聞いた話を家でよく考えたい」と、この日は依頼を決定せずに帰宅した。

 

弁護士事務所にて

初めての単独面談を無事終えて、甲弁護士は意気揚々と先輩の乙弁護士に報告した。

 

しかし、鋭い指摘をいくつか受けた。

 

1.借金が増えた理由をきちんと聞いていないことが問題
ギャンブルや浪費が原因なら免責不許可事由だ。

 

免責不許可事由の存在が明らかで程度も軽微でない場合は、免責調査型の管財事件にする必要がある。

 

2.資産の追及が甘い
貯金や不動産はないというが、退職金請求権、自動車、保険などもチェックすべし。

 

同時廃止希望で申立てを行っても、裁判所が資産ありと判断すれば管財手続に移行する。

 

傍で聞いていたボス弁護士は、依頼者への注意事項や持参してほしい資料を一覧表にしておいた方がいいとアドバイスをくれた。

 

その上でXの案件は甲弁護士に任せてくれた。

 

2回目の法律相談

3日後にXが来所し、甲弁護士が話を聞いて次のような事情がわかった。

 

  • 商社の事務員だったが、結婚後退職してレジ打ちのパートに。月収14万円程度。
  • 夫Yの浮気が原因で離婚し、現在は5歳の娘Z子とアパート暮らし。
  • パート収入で子育てしてきたが、体が弱いため欠勤で収入は不安定。
  • 生活用品のカード購入が始まり、Z子の幼稚園入園とともに借金が増えた。
  • 続いて夫Yからの月3万円の仕送りが途絶える。
  • 夫は所在不明で、母親の話から無職と推定される。。
  • 次に肺炎で2週間入院。入院費等のために母親から15万円借り入れ。
  • この時点で債務総額は230万円に。

 

Xに浪費癖など免責不許可事由に相当しそうな点がないので、甲弁護士はひとまず安心した。

 

生命保険は解約済みで返戻金はなかったとのこと。

 

退職金はおそらくないが、会社に聞いてもらうことにした。

 

母親への返済の禁止

話の中でXは破産する前に母親にだけは返済しておきたいと言ったが、甲弁護士は禁止した。

 

破産前に一部の債権者だけに返済することは偏頗弁済と呼ばれる。

 

債権者を不公平に扱う行為で免責許可が下りない原因になる。

 

依頼者への指示・注意事項

甲弁護士はXに自己破産で行く方針を示し、注意事項や次回までに用意してほしい資料の一覧表を渡した。

 

【注意事項の抜粋】

  • 今後新たな借り入れやカード利用をしてはいけない
  • どの債権者に対しても返済をしてはいけない
  • 財産についてまだ弁護士に言っていないことがあれば即報告する
  • 転居・転職の際はすぐ知らせること
  • これらに違反すると弁護士は辞任する場合がある

 

申立ての準備

甲弁護士は、東京地裁破産再生部に提出する4種の書類の作成に取り掛かった。

 

  1. 破産手続開始・免責許可申立書
  2. 債権者一覧表
  3. 資産等目録
  4. 陳述書・報告書

 

先輩の乙弁護士がいくつかアドバイスをくれた。

 

債権者一覧表の「原因・使途」に「生活費」が多いが、中身を調べろ。

 

ギャンブルや贅沢が紛れ込んでいないかチェック!

 

資産等目録については、別れた夫から未払いの仕送りを回収できる見込みはないことについて、ちゃんとウラを取れ。

 

預金通帳は残高だけを見ず、お金の細かい動きを追え。

 

今までの話と矛盾する点や隠し資産、偏頗弁済の兆候がないかチェック!

 

甲弁護士はアドバイスに対応する方法を考えた。

 

Xに「生活費」の中身をできるだけ思い出してもらい、もう一度話を聞く。

 

別れた夫Yについては、住民票の異動がないことを確認する、Yの母や以前の勤務先で話を聞く、など。

 

預金通帳もよく確認した。

 

破産申立て

甲弁護士は必要書類を携えて東京地裁破産再生部を訪れた。

 

東京地裁の場合は、同時廃止を申し立てた案件について即日面接というシステムを取っている。

 

これは、申し立て当日に裁判官が面接し、同時廃止か管財手続かに振り分けるスピーディーな処理。

 

待機していると名前が呼ばれて裁判官の前に通された。

 

別れた夫のことや貯金通帳の中身について裁判官から質問。

 

乙弁護士のアドバイスを聞いて準備しておいたのが役に立った。

 

面接は5分程度で終わり、その日の夕方に破産手続き開始決定とともに同時廃止決定が下された。

 

免責手続き

甲弁護士は事務所に帰って、Xに破産手続き完了を報告した。

 

Xは借金がなくなったと喜んでいる。

 

借金がなくなるのは破産手続きでなく、その次の免責許可を得た時だ。

 

そのことを最初に説明したが理解していないので、甲弁護士はもう一度説明した。

 

免責許可をもらうためには、2か月後ぐらいにある免責審尋という裁判官の面接に2人で出る必要がある。

 

免責審尋

甲弁護士とXは東京地裁のロビーで待ち合わせた。

 

手続きを済ませて法廷に入ると、傍聴席に多数の破産者と申立て代理人(弁護士)が座っている。

 

順番に名前を呼ばれ、被告席に座る。

 

Xについては「破産開始決定後、何か変わったことは?」と甲弁護士に質問があっただけで終わった。

 

こうして免責審尋を無事終えて免責許可が下り、Xは債務から解放されて新しい人生を踏み出せることになった。

 

免責審尋の実態に関する感想

免責審尋は本来、下記のような免責不許可事由がないか確認するための面談です。

 

  • 財産を隠したり、贈与しなかったか?
  • ローンやクレジットで買った商品を換金していないか?
  • 借金の原因が浪費やギャンブルではないか?
  • 過去7年以内に免責を受けたことはないか?
  • その他

 

しかし、実際には破産者が多すぎて一人ずつそんなことをやっているゆとりがない。

 

そこで免責不許可事由のチェックは、申立て時の弁護士の書類の審査で兼ねられている。

 

免責審尋は形式的なものになっている実態がよくわかりました。

 

田舎の裁判所ではまた違うのかもしれないが、これはとても興味深かったです。

 

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