破産すると家や土地を残すのはほぼ無理
自己破産したら財産はどうなるのか?
今回は家や土地などの不動産について説明します。
破産しても生活用品や一定限度の現金は自由財産として残してもらえますが、不動産は無理です。
不動産を所有したまま破産申立てした場合
破産申立人が不動産を所有している場合、管財手続となり、管財人の管理下で売却・換金され、債権者に配当されます。
ただし、住宅ローンが残っていて抵当権がついている場合、それが優先的に弁済されて、もし余りが出れば、他の債権者の弁済に充てられます。
抵当権は、別除権と言って、破産や民事再生の手続きに左右されずに優先的に弁済を受けられる権利だからです。
住宅ローンの残額が住宅の価値の1.5倍以上の場合は、不動産を所有したままでも同時廃止手続きが可能です。(ただし、免責不許可事由の疑いがない場合)
これはそこまで差があると、抵当権者以外の債権者に回せる余りが出る可能性がまったくないからです。
この場合は抵当権者が不動産を競売にかけて債権を回収します。
どちらにしても不動産を失いますが、同じ自己破産でも同時廃止の方が費用が安く、かかる時間も短いです。
不動産を処分してから破産申立てをした場合
ローンの状態で分けて説明しましょう。
オーバーローンの場合
自己破産に至るような人の持ち家は、売却見込み額より残債の方が多いオーバーローン状態の場合が多いです。
差額をどこかから調達して全額弁済の目途をつけないと抵当権をはずしてもらえず、売るに売れません。
しかし、破産を目前にしている人にとってそれは現実的ではありません。
それで不動産を持ったまま、自己破産を申し立てることが考えられますが、それについては先ほど説明しました。
一方、自分で住宅ローンを弁済せずに破産前に住宅を処分する方法となると競売となります。
住宅ローンを滞納し続けて6カ月くらいで銀行は保証会社の代位弁済を受け、債権回収会社が競売の申し立てをします。
そこから半年~10カ月くらいで競売が完了します。
このプロセスは債務者が何もしなくても進行します。
つまり、滞納を始めてから少なくとも1年くらいはローンの支払いなしに今の家に住めるわけです。
代位弁済が完了した後で、かつ数カ月くらいしか経っていない時期なら任意売却という方法もあります。
これは競売より少しマシな方法ですが、売れたら退去しないといけないので、競売の場合より住んでいられる期間は短くなります。
詳しくは競売と任意売却のページを読んでください。
競売か任意売却で不動産をなくしてから自己破産を申立て、同時廃止を狙うのも一つの選択です。
(ただし、ほかに大きな財産がなく、免責不許可事由の疑いもないことが条件です。)
ある大手弁護士事務所のQ&Aコーナーでは、こうするように勧めていました。
ただし、破産申立てがかなり後になり、それまでは取り立てが止まらないことになります。
取り立ての激しい業者からも借りている場合、これはしんどいかもしれません。
ローン残債が少額かゼロの場合
不動産を売って住宅ローンを全額弁済してもプラスになる状態ですから、売って返済と当面の生活費にし、なんとか破産を回避しようと努力するのが普通です。
それができるなら、まずは頑張ってみてください。
しかし、不動産を売っても返済能力を超えた債務が残り、自己破産が不可避という場合もあります。
例えば、住宅ローン以外の借入があまりに巨額な場合。
あるいは、高齢・病気などで就職の見込みがなく、収入がないので、売却代金を返済と生活費で消費したらそこで終わり、といった場合です。
こういう場合、不動産の売却代金で、肉親・友人からの借金や保証人付きの債務だけを、迷惑がかからないように返済してから、自己破産しようと考えるかもしれません。
しかし、これは偏頗弁済(不公平な返済)と捉えられ、肝心な自己破産後の免責が受けられなくなる可能性があります。
まだ、破産が不可避の状態でないなら、これをやっても問題ないですが、客観的に破産が不可避の状態になった後でこれをやると偏頗弁済です。
その分かれ目をどことみるかは明確でないこともありますが、裁判官は当時の資金繰り状態などもかなりシビアに聞いてきます。
当人が「自己破産は不可避」と思ってやった状況なら、裁判官も同じように判断すると思われます。
少なくとも調査の必要があると捉えられ、無一文で自己破産に臨んでも管財手続にされて、費用と時間がかかるのは間違いないでしょう。
不動産が破産財団から外される場合
売却・換金して債務者への配当に回されるために、管財人に管理・処分権をまかされた破産申立人の財産を破産財団といいます。
生活用品や20万円以下の財産を除き、金目のものはすべて破産財団に組み入れられます。
しかし、いったん組み入れた後で、その財産がほとんど価値がないとか、売却・換金にコストと時間がかかりすぎる場合、管財人の判断でそれを破産財団からはずすこともあります。
その場合、所有権は元の持ち主に返されます。
本当の山奥の古い一軒家とか、土壌汚染のひどい土地などはそういうこともあるかもしれません。
まあ、あるとしても非常にレアケースですが、一応触れておきます。
名義変更等によって守れないか?
取り上げられるのは破産申立人名義の不動産だけです。
だから、名義変更によって守ることができないかというのは当然考えると思います。
まず、名義変更には「相続」「売買」「贈与」などの「原因」が必要です。
「原因」なしに名前だけすっと書き換えるということはできないのです。
では、生前贈与とか親族・友人に相場より大幅に安く売るというのはどうか?
これは「財産隠し」「破産財団の価値を不当に減少させる行為(詐害行為)」として免責不許可事由になります。
最悪は「詐欺破産罪」で刑事罰を問われる危険もあります。
裁判官もプロなので、この種の操作は必ず発見されます。
隠し通すのは無理だと思ってください。
もともと他人名義の不動産は大丈夫
家の名義人がもともと配偶者や親である場合は、破産したからといって取られる心配はありません。
保証人になってもらったりしていない限りは。
自己破産は個人の問題であって、家族の連帯責任ではないのです。
失った家に住み続ける方法
以上のように、自己破産をすれば持ち家は失いますが、元の家に住み続ける方法がひとつあります。
それは競売にかかった家を親族や知人に落札してもらい、その人に家主になってもらうことです。
もはや持ち家ではなく賃貸ですが、生活環境が変わらないことで気持ちは安定します。
競売での価格は普通の不動産取引より2~3割安いのが普通です。
最高価格の入札者が落札するので、確実に落札するためにはあまり低い値段で入札するわけにはいきません。
それでも割安な買い物になる可能性は大きく、買い手自身もほしいと思える物件ならメリットはあります。
資力のある親族・知人がいるなら、お願いしてみるのもいいでしょう。
実際、この方法で元の家に住み続けている人はいるようです。