退職予定がなく、退職金が大きい人は問題
自己破産では、まだもらっていない場合を含めて、退職金も債権者への弁済のために取られる可能性があります。
特に中高年の方には老後の資金ですから、心配なところです。
この問題についてまとめました。
退職金は財産
すでに退職して受取済の退職金は、現金か預金ですから、間違いなく財産です。
退職するつもりはなくても、退職金規定のある会社なら、今自己都合で退職した場合の退職金は計算できます。
これは退職金請求権と呼ばれ、やはり財産です。
全部取られてしまうわけではなく、限度は定められていますが、換価処分の対象になりうることは覚悟してください。
受け取り済の退職金
破産申立て以前に退職して、退職金を受け取り済の場合は現金、または預金として扱われます。
出所が退職金かほかの金かに関係なく、現金の合計、預金の合計で扱われます。
他の財産はないとした場合、現金は99万円まで自由財産となるルールです。
これを超える部分は破産財団に組み入れられ、弁済に回されることになります。
長期勤続の場合、退職金が多額になることを思うと、厳しく感じるかもしれません。
「例えば現金が退職金だけで、それが1500万円なら、1401万円は処分されてしまうのか?」と。
しかし、まだ多額の退職金が残っている段階で自己破産を申し立てることはないとも考えます。
まだ受け取っていない退職金
まず、退職金請求権が財産としてチェックされるのは、勤務先に退職金規定がある場合だけです。
ない場合は関係ありません。
次に、どの時点の退職金かというと、定年退職時ではなく、破産の時点で自己都合退職した場合の退職金です。
破産法の取り決めでは、退職金の3/4は差し押さえ禁止財産なので、本人のために確保されます。
逆に言うと、債権額に応じて最大1/4が換価処分されます。
まもなく受け取る退職金
破産申立て時点で退職済みで退職金支払い待ちの場合、および破産手続き中に退職して退職金を受け取る予定になっている場合。
この2つの場合については、このルールで進められ、特に問題はありません。
退職金の支払いはほぼ確実ですから、1/4の原資もちゃんとあるし、3/4は当人に確保されるので、生活も一応安全です。
遠い将来の退職金
問題は、当面は退職する予定はない場合です。
退職金請求権の1/4を換価処分に差し出せと言われても、どこから調達したらいいのでしょうか?
勤続が長い場合、退職金は多額になり、1/4でも相当な金額になる可能性があります。
自己破産に直面している人が用意するのは難しいことも多いでしょう。
実際に退職してしまえばもちろん退職金はもらえますが、それでは収入を失ってしまいます。
再就職できたとしても収入ダウンになる可能性が高く、年齢が高ければ無職のままになることもありえます。
破産者の経済的更生という観点からはこれは大きなマイナスです。
会社に事情を話して前借を申し込む方法も考えられますが、応じてくれるとは限りません。
最終的には退職金はもらえるのだから、自分で何とか払って後で取り返せばいいという考えもありますが、それもちょっと甘い。
自分が退職する時に会社が存続しているとは限らないからです。
当人がどうにもできない場合、理屈としては管財人が勤務先に退職金の1/4の前払いを請求することになります。
しかし、それをやれば会社に破産の事実を知られ、後々の勤務に悪影響が出る可能性も否定できません。
このように、退職金の大きい人、例えば長期勤続の管理職などにとっては、この問題は八方ふさがりの色合いが濃いのです。
これを軽減するための「運用」を独自に行っている裁判所もあります。
例えば、東京地裁の場合、上記のケースに対しては「自由財産の拡張」を行い、退職金支給見込み額の7/8を自由財産としているそうです。
換価処分対象は1/8、つまり1/4の半分でいいということですね。
こうした措置は各裁判所で異なるので、申立てをする地の裁判所のルールを弁護士に確認してもらってください。
いずれにしろ、退職の予定がなくて退職金請求権が大きい場合は自己破産は難しい選択を伴うことになるので、弁護士と方法をよく相談することです。
退職金計算の証拠提出
さて、退職金計算の資料を弁護士経由で裁判所に提出する段階に話を戻します。
計算はもちろん当人の自己申告ではダメで、根拠のしっかりした資料が必要です。
最も一般的なのは、勤務先に退職金計算書を作成してもらい、それを提出することです。
ただ、これは会社に自己破産を感づかれる危険があります。
理由を聞かれたら「与信審査で提出を求められている」といった説明をすればいいのですが、「何の与信審査?」などと突っ込んで聞かれる可能性もあります。
つじつまが合っていなければ、うすうす感づかれる危険はあります。
自己破産を理由に解雇するのは違法なのだから、そのへんはもう腹をくくって臨みましょう。
より発覚しにくい方法としては、退職金規定のコピーを提出する手もあります。